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かっちゃびひとつ、くださいな 

2009.11.12


   故郷を離れてからひとり暮らしが長く、住む場所もいくつか変わってきた。

   だから、生まれ育った土地ではない場所に住む単身者が多かれ少なかれそうであるように、

   今まで地域の町内会というものには縁がなく、誇れることではないけれど町内会費を払っていた

   記憶はあってもその行事に参加したことは一度もない。 そんなお誘いもないのが普通だった。

   そんな地域社会性の全くない私が、結婚相手がたまたま住んでいるということで移り住んだこの町で

   初めて迎えた7月に、その回覧板はやってきた。


朝

 

   「町内会草刈り、日曜日朝6時集合 軍手・かっちゃび等、道具を各自持参してください」

   「にちようびあさろくじ?」

   「かっちゃび?」

   どっちも意味不明、いや「日曜日の朝6時」は、わかる。 「日曜日の、朝6時から、草刈り」をすると

   いうことだ。 今までの私の常識では、日曜日の朝6時は爆睡中である。 しかしそれは仕方がない。

   私はさっさとあきらめた。 郷に入れば郷に従えだ。

   この土地の人たちは本当に働き者で、多くの人が仕事をしつつ自分の畑を持っている。 

   きっと夏の日差しが強くなる前に、そして自分自身の仕事前に町内会の仕事をやっつけようと

   いうことなのだろう。

   それにしても「かっちゃび」って、何? 私は「朝6時」の動揺を悟られないように、いつも回覧板を持って

   きてくださる近所の奥さんにうかがった。

   「かっちゃびは、カマのことですよー」。 奥さんはすっきりとした化粧っ気のない顔で、少し照れた

   ような笑顔を浮かべる。

   カマ、ですか。 でも私はMyカマを持っていない。 そうか、この辺りの人はみんな畑仕事をするから、

   そんなものは当然常備してるんだ。 でも、カマといえどいろんな種類があるだろう、どんなカマを

   買えばいいのか、でも待てよ、今の私の生活にカマは必要ない、無駄な出費はしたくないなぁ。

   瞬時にそんな思いをぐるぐる巡らせて、思い切って私は言った。

   「あの、申し訳ないのですが、余分なカマがあったら貸していただけませんか?」

   奥さんは、少し息をのんでから、優しく「いいですよー」と笑った。

   後日お借りしたカマは、私の想像と違って新品同様ぴかぴかであった。 まさか私のために新しく

   用意してくださったとでもいうのだろうか?いやいやまさかそこまで。 きっと大切な道具をいつも

   丁寧に手入れしているんだ。

   ぴかぴかのかっちゃびをしばらく見つめた私は、決意を新たにした。 そして軍手も揃え、忘れようが

   ないのだが忘れないように玄関の靴箱の上に置き、まるで遠足前日の小学生のように緊張して

   寝床についた。 携帯の目ざましは5時半にかけた。 なに、平日の朝より30分早く起きればいい

   だけだ。 草刈りの集合場所までは走って2分。 余裕のよっちゃんだ。



道

 
   はたして次の朝、はっと目覚めて携帯を見ると、なんと時刻は6時45分ではないか!

   私はあせった。 なななななんでアラーム鳴んなかったのーーー!?

   アラーム音に気付かなかったわけはない。 私はアラームが「ぴ」と鳴っただけでも目を覚ますタチ

   である。 体内時計が発達しているのかなんなのか、アラームが鳴る5分前、1分前に目覚める

   こともザラだ。

   あわてて布団から起き上がり洗面台の前で顔を水でぺろっと一回濡らしたものの、いろんなことが

   頭に浮かんで手が止まる。

   いわば町内会デビューの日。 なのにこれだけ遅刻して、一体どのツラさげていけばいいのか。

   「だから新参者は」って思われるに決まってる。 そうか、シカトしちゃえ!寝坊しちゃってスミマセン、

   今度は必ず!ってあとで笑って言えばいい。 イヤイヤでもでもーー。 ぴかぴかのかっちゃびと

   奥さんの笑顔が目に浮かぶ。 こんなことなら、かっちゃびなんて借りなけりゃよかったんだぁーー!

   何故そう決断したのかはわからないが、私は軍手とかっちゃびをつかんで走り出した。

   オタオタしてる間に、もう7時になってしまっていた。 


   20人くらいのしゃがみこんだ丸い背中が見える。 アスファルトの隙間から生えた雑草や、花が

   咲いているプランターの中に手を入れて、みんなてきぱきと働き者の手を動かしている。

   「おはようございます、遅れて、ほんとにスミマセン!」

   私は人生初ではないかと思うほど小さく身をちぢめて、何度も頭をぺこぺこと下げた。

   作業の手を止め2人くらいが一瞬振り返り、珍しそうに私を見たがまたすぐ背を向けた。

   初めて見る顔、しかも1時間も遅れたナマケモノには言葉もなくて当然だ。 私は一瞬の判断で、

   たくさんの背中の後ろを小走りして通り過ぎ、いちばん離れた、みんなから遠い場所のプランター

   前に腰を下ろした。

   とにかく来た。 手をつけていない場所が残ってて本当によかった。 かっちゃびをどうやって使う

   のが正しいのかわからず、私は適当に花のまわりに生えた雑草を手で抜いていった。

   最後にまともに土をさわったのは小学生の頃だったろうか。 刃物だって、包丁とハサミ、カッター

   くらいしか使ったことがない。 経験のない刃がカーブしたかっちゃびは、使おうとしてもなかなか

   手になじまない。 不慣れな者に新しい道具は危険だ。 私はあきらかにスローだった。


かっちゃび

 
   しばらくして私の名を呼ぶ声の方を見上げると、おそらく畑仕事のときはいつもこうなのだろう、

   上下紺色のトレーニングウェアに長靴というこなれた作業着に身を包んだ奥さんがにこにこしながら

   やってきた。 

   「うわ、プロだ!」。 まだ興奮さめやらぬ頭にそんなことが浮かんだが、私はすぐさま立ち上がり

   ぺこぺこ頭を下げておわびした。

   すると奥さんは私の隣のプランター前に座り、私の3倍くらいの速さでどんどん鋭いかっちゃびの先で

   土を細かく掘り起こし雑草の根を切りながら、視線はプランターの中に向けたままやはり優しい声で

   ゆっくりと言った。

   「いいんですよーー、来てくれただけで。 参加しない人もいっぱいいるからねー。」

   そして緊張している私に気を遣っていろんなことを話しかけてくれた。 

   しばらくして落ち着くと、ああそうか、いつも通り過ぎる時に綺麗だなと思っていた道端の花は、

   この人たちが朝はやくからこうやって綺麗にしていたんだという思いがしみじみと湧いてきた。

   細やかに手入れされた庭の花も、道端の、整えられすぎていない私好みの花も。 

   私はそれらは勝手に生えているものだと思っていた。 たたずまいが自然なのだ。 だがよく考えると、

   多くはその地域の人たちの手によって、誰も気がつかないうちに植えられ、手入れされてきたものだ

   ということにようやく気がついた。 

   冬が長く雪深いこの土地で、ほったらかしのままで花は綺麗に咲いたりなんかしない。

   そんなことが頭に浮かんでは消え、私は心まで小さく丸まってしまった。 

   ほんとに、スミマセン、私、ごまかそうとしてました。

   ほんの10分ほどすると、ペットボトルのお茶や缶ジュースで休憩時間となった。 さっきまで黙々と

   作業をしていた人たちは、みんなかぶっていたタオルや帽子をとってほっとした笑顔になった。

   よそ者扱いしていたわけでも無視していたわけでもない、みんな作業をするときは寡黙で懸命な

   だけだった。 休憩なんてと恐縮する私に「休むときはみんなで休むもんだ」というようなことを、

   土地の言葉でおばあちゃんたちが笑いながら口ぐちに言った。

   
   一ヶ月後、草刈りの回覧板がまたやってきた。 そうだ、夏は植物の成長が早いんだった。

   「朝6時」の文字に、またやれやれとは思ったけれど、私はその日のうちに自転車でホームセンター

   に走った。 そして生まれて初めて、たくさん並んでいるものの中から少し時間をかけて

   「Myかっちゃび」を選んだ。

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コメント

 

ののもんちゃん、がんばったなー
ぺこぺこしてる姿が目に浮かぶ~~
うちもぺこぺこし続けたのち、数年前には町内会長もやり遂げたよ(T_T)
かっちゃびのようなものも使ったことあるけど、「かっちゃび」とは誰も言ってなかったな~

 

しな  いやーすみません、先輩。笑  町内会長は大変やったねぇ。当番制なんかしら? ちなみに奥州市というところに住んでる知り合いは「うちなんか朝5時半からです」って言ってた。スゴ。

 

きっと太陽とともに生活しているので、冬なんて夕方5時くらいに寝ちゃうんじゃないでしょうか、町民は。

 

ぴくるすさん  あ、そうか。朝6時でも10時間睡眠はキープされてるんですね、よかったです。笑

 

ののもんちゃんの、かっちゃび、ぴかぴかだねぇ。
かまなんて、もう四半世紀以上触ってないよ(笑) だけど私が中学生とかの
時に使っていたかまはもっと、ぐぐんとカーブしてた・・というか、カーブさせてた
なああ・・なんてことを思い出しつつ。
今はさー、なんか「そんな状況をドラスティックに変えるソリューションはですね・・」
なんて、わけわからんこというて、けむにまいてますが、四国の田舎の子だったころを
思い出したよ。きっと、雪とか北国ぽいところをのぞけば、私の育った町にも似てる
空気感があるのよねぇ・・・。いつか、遊びにいくよー。蛾のいない頃に(笑)

 

cooちゃん いやーお恥ずかしい。あれ以来なかなか使う機会なくてー。 「ドラスティックに変えるソリューション」って、どっかのおばあちゃんとの会話に使われへんかしら。例文おくれ。笑 蛾のないころに、アノ県道とおってべっぴん行きやね!

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愛媛生まれ
大阪→サンフランシスコ→東京→札幌→東京、2008年秋から岩手→2013年春、第二の故郷へ

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